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かなり集中しているのか、金井さんはすぐ近くまで近寄ってもこちらに気付かず、ノートパソコンの画面とにらめっこをしていた。
相変わらずきれいな顔だちをしている。
睫毛、長いな。鼻筋もスッとしていて、女の人みたい。
そんなことを思いながら、つい見とれてしまっていた自分に気がついて、慌てて視線を逸らす。
私は目の前の自動販売機でペットボトルのコーラとお茶の二本を買って、彼のすぐ目の前に立ち、二本を彼の前に差し出した。
「こんにちは」
声をかけると、少し驚いた様子で金井さんが見上げてきた。
その表情が、驚きから笑顔に変わる。
「わかなさんか。こんにちは。今日もジョギングだね」
「ええ、これ、良かったら」
「お、サンキュー」
金井さんは、嬉しそうにコーラを受け取って蓋を開け、キュッと一口飲んだ。
「もしかして、けっこう前からいた?ゴメン、気がつかなくて」
「大丈夫ですよ。集中していましたね」
「うん、締切が近くてね」
「あ、もしかしてお邪魔でしたか?」
「いや、いいんだ。ちょうど煮詰まってたところだから」
流れるように言葉が交わされる。
まるで気心の知れた昔からの友人のようだった。
眉間に皺を寄せて黙り込む夫と話すよりも自然な気持ちだ。
金井さんは、心持ち腰を上げて、座る位置を端の方へ移動した。
隣にどうぞというわけだ。
私も躊躇なく好意に甘えた。
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