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「今日も俺がいると思った?」
「え?」
突然の問いかけに私は慌てて金井さんに顔を向けた。
「冗談。ジョギングしてたんでしょ?」
金井さんは、クスリと笑う。
品のある貴公子のような笑顔。端正な顔だちは、つい我を忘れて見とれてしまいそうになる。
「ええ」
私は高鳴る胸の動悸を気づかれないように、小さく返事をしながら、ペットボトルのお茶を飲んだ。
気づかれていない……よね?
チラリと覗いてみると、金井さんは、まっすぐこちらを見てニコニコと笑っていた。
「な、なんでしょう!?私の顔に何か付いてますか?」
慌てて訊く私に金井さんは優しく首を振った。
「いや、かわいいな、と思ってね」
「!?」
頬が、かあっと紅潮するのが自分でもわかった。
「か、からかわないでください」
私が言うと、金井さんの表情が真顔になった。
「からかってなんかいないよ。本気でそう思ったんだ。すごくかわいい」
「そうですか。あ、ありがとうございます」
ひどく暑い。
心臓が激しく脈打っている。
何なんだろう、この人は。何で、そんなかわいいなんて平気な顔で何度も言えるんだろう。
かわいい。そんなこと言われたのはいつぶりだろう。夫はそんな言葉は言ってくれないない。結婚する前からずっと。
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