3人が本棚に入れています
本棚に追加
それに動じることなく、直哉はマグカップの中のコーヒーを一口啜った。その態度が気に入らないのか、芙美は眉間の皺を一層深くし、もう一度、ぐい、と人差し指を直哉に向けた。
「先生には、今度の文化祭のチラシを作るって仕事があるでしょ! 進んでる? もう文化祭まで一か月なのに!」
「進んでる。気にするな。席に戻れ」
芙美の質問に簡潔に答え、あっちへ行け、と右手を振った。
「嘘だ。絶対嘘だ」
芙美は疑わしげな目を向けて、彼のパソコンを見ようと回り込む。しかし、ディスプレイのスイッチを切られ、画面は真っ暗になってしまう。
「あーっ!」
真っ暗闇な画面に、芙美の間抜けな貌が映り込んだ。
「ブス」
「先生!」
再び言い合いが始まりかけた時、部室の扉が開き、男女の二人組が入ってきた。
「まーたやってるよ」
「ホント、仲がいいのか、悪いのか」
「悪いに決まってんだろ」
入ってきた二人組に、直哉は呆れたようにそう返した。
今年入学してきた一年生の、東雲金吾と金城美湖だ。ちなみに芙美も一年生で、彼らと同級生である。
彼らは手に持った、中身が一杯のビニール袋を部室の中央に置かれた大テーブルの上に置いた。形の崩れた袋から、様々なパッケージが覗く。それを見た芙美の眼の色が変わる。
「おお! みこっち、わかってるねえ! 頭を使うと甘いものが欲しくなるんだよねえ」
最初のコメントを投稿しよう!