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「あんたは使ってなくても甘いものばっか食べてるでしょ!」
さっそく伸ばし掛けた手を、美湖がすかさず叩く。芙美は即座に手を引っ込め、赤く染まった甲を撫でた。
「ケチ! いいじゃないか、一つや二つや三つや四つ」
「それだけで済まないから阻止したんでしょうが。全く。ちょっと目を離したら、袋一つ無くなってるんだから」
「太るぞ」
「うるさい!」
背中に投げ掛けられた心無い直哉の一言に、芙美は全力で噛みつく。
「はあ、うるさいな。ちょっとは静かにできない?」
「あ、左近先輩」
部室の隅にある専用のスペースで作業に没頭していた左近がのっそりと顔を出す。彼は三年生で、この春に一年生が入ってくるまで、彼が唯一の部員だった。
文芸部というマイナーな部活にも関わらず、今年入ってきた面々は賑やかで、迷惑そうな表情こそしているが、左近はその口元を僅かに綻ばせている。
「すみません、左近先輩。いろいろ買ってきたんで、口が寂しくなったらどうぞ」
金吾が机の上に置かれた四つの袋を見て言った。左近はにこりと笑って、ありがとう、と短く礼を言った。
「お、クッキーがあるじゃないか。先生、紅茶を淹れても構わないですか?」
「ああ、勝手にしろ」
「ありがとうございます。みんなはどうする?」
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