出逢い

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「いいか。これから会うのがお前の上司になる男だ」  赤い肌をした精悍な男。シルバーグレーの軍服に袖を通し、胸には『銀の四つ山』の紋章。腰には『銀の花』の剣を差し、同じ紋章が咲いた制帽を被っている。  名を、ナスカ。近衛軍第5中隊長を務める男だ。  付き従うのは彼の部下。名を、ヤスミン。  この『銀の四つ山』は近衛軍の紋章。『銀の花』は軍旗で、国花であるククリスという三枚の花弁を咲かせる白い花をモデルとしている。この『銀の花』は軍の証であり、その花を身につけるということは軍人ということ。これは近衛兵のみならず、皇国軍にも共通している。  シルバーグレーは近衛兵の色だ。襟と袖には銀色の刺繍があり、所属部隊は詰襟や袖口、服の断裁ラインに沿って施された色で判別する。第5中隊はメナと呼ばれる蛍光色のような淡く鮮明な緑色。メナルバシスという花由来の色だ。  ヤスミンの肩章は銀だが、ナスカは濃紺。この濃紺は他と区別するため、隊を率いる長のみが着用を許される。 「お前がうちに来た時はとんでもない美少女だったのに。まぁ、成長しちまって……」  その美少女っぷりから女名を付けられたものの、今では立派な美青年に成長した。身の丈は190を僅かに越え、上司よりも大きく逞しい。 「まさか、親衛隊に引き抜かれるとはなぁ……」  ――先日、ヤスミンに異動命令が下った。 「噂は聞いてるだろうが、あいつは怖いぞ~。気ィ引き締めろ」 「はい」 「でも、俺の部下があいつの部下になるなんてなぁ~。これも運命か何かかな?」  緊張でガチガチながらも、まだ現実を現実として受け止めきれずにどこかふわふわしているヤスミン。長い夢でも見ているようだ。そんな前代未聞の不安定の最中にいる彼に対し、上司は楽しそうだった。  
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