出逢い

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 国のシンボルであるライア宮殿。その正門すぐそばにある赤れんがでできた古い建物が、世界にその名を轟かすセリシア皇国軍の本部。その厳つい実情とは裏腹に、国民からは「兵隊さんの赤い家」と親しまれ、宮殿とともに観光スポットでもある。  近衛軍の本部は、正門ではなく通用門を抜けたすぐ先。宮殿の「外」ではなく「内」に構える。  ――今、ヤスミンはその中にいる。  ヤスミンは『銀の四つ山』を持つ正式な近衛兵だが、本部に立ち入るのは初めてだ。  緊張するな、というのが無理な話。  宮殿の敷地内にある近衛軍本部。ここに詰めるのは宮殿に入れる近衛兵――つまり、皇族近衛だ。  彼らは近衛軍に属する近衛兵でありながら『銀の四つ山』ではない。『銀の四つ山』をつけるナスカやヤスミンが門を通れたのは特別な許可証が前もって与えられ、門番にも話が通っていたからだ。  皇族に仕え、宮殿に出入り彼らは近衛軍でもまた別。その身分の証として『銀の剣と盾』を胸に輝かせている。  門番の彼らも『銀の剣と盾』、この本部ですれ違う者たちも『銀の剣と盾』。『銀の四つ山』であるナスカとヤスミンは本来いるはずのない異分子だが、ナスカは中隊長。近衛軍のトップである「将軍」とそれに次ぐ「大隊長」、その次の位に座る者。女帝の手からその地位を賜った近衛軍の幹部だ。その顔は当然知られているし、おそらくヤスミンのことも知られているのだろう。二人を見た顔が「おっ」「あっ」と興味深く輝き、幹部である中隊長を前に道を譲って頭を下げる。  そんな彼らにヤスミンは「お疲れ様です」と頭を下げて通り、「は?」「何が起こった?」「信じられない」という顔で見送られた。
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