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加山君もそれ以上何も言わずに、二人でただ黙って歩いた。
結局、うちの近くまで来てしまって、それに気づいたとき加山君が残念そうに、また私の名前を呼んだ。
「美雨、……遅くなったから、今日はもう帰ろっか」
とっさに、嫌だ、って思ったけど。明日の自分の予定を思い出して、加山君がそのことを気にしてくれているのだと気づく。
でも、ごはん、一緒に食べたかったな、と思っていたら。タイミングよく、加山君のおなかからグーッと空腹を伝える音がした。びっくりして、でも二人で顔を見合わせて笑う。
「……あの、うちに、……お弁当の残りなら、あるよ?」
「ダメ!」
即答で断られて、落ち込んだら、はあ、とため息をつかれた。
そうだよね。試験だもんね。そうでした。と、自分に言い聞かせていたら、
「違うから!」
焦ったように加山君が、自転車のスタンドをキックして自転車を止めた。ぎゅっと両手を握られる。
「行きたくない訳じゃないよ。お弁当もおいしかった。けどね。……んー、なんていうか……」
手を取られたまま、言葉を選んでいる加山君を見上げる。
「俺、高2男子なんだよね」
「?」
首をかしげる私に加山君は苦笑する。
「高2のオトコとしては、美雨との関係を先に進めたい気持ちになるときもあるの!」
関係を、先に……。先ってなんだろう? って、考えて思い当たる。
「え!……は、」
それは、やっぱり。その、そういう……?
「は、じゃなくて、そうなの。……でもまだ俺も考え中だから」
考え中……その言葉が、すごく本当っぽくって、いたたまれなくなる。
「……どんどん先に行きたい気持ちと、ゆっくり、してたい気持ちと。……矛盾かもしれないけど、いつも二つあって。だから……」
ふう、と加山君は一つ息をつく。
「夜、密室で二人きり、とかは、……危ないかも?」
「わ、わかりました……」
カクカク、何度も頷いていると、加山君が困ったように笑って。
「大丈夫だよ。決定権は美雨にあるから」
そこだけはまちがえないから。
そう言って、私の頭をぽんぽんとたたくと。「帰ろっか」と自転車に向かう。
「……ありがと」
その背中に向かって、小さくつぶやく。大事にされているのが分かる。だから、それ以上に大事にしたい。
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