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「焼きあがってる食パン、型から抜いてくれ。……ってなんだ、美雨、お前制服じゃないか」 「わかったー。……いいよいいよ、どうせもう今年だけだし」 粉が付くぞ、というジャスチャーをしているおじいちゃんにそう答えていると、頭の後ろから、ギンガムチェックのエプロンが降ってきた。おばあちゃんが投げてよこしたらしい。 「あ、ありがと」 「最後の一年だから、大事に着なきゃ。汚したってもう買えないんだから」 そう言って、おばあちゃんが肩をすくめる。おばあちゃんはいつも通り赤のストライプのエプロンをしている。 「美雨の制服のデザインの方が、おばあちゃんは好きだけどねー。シンプルで」 「そう? いい加減ダサかったから。新入生はうれしかったみたいだよ。在校生は悔しがってたけど」  私たちの高校は、今年から制服が変わった。  これまでの、ザ制服と言っていいほどのデザインから、デザイナーブランドのものへ。  決定が発表されたときは騒然となった。特に女子は。  のっぺりした紺色で、エンブレムも何もない三つボタンのブレザーに、ジャンパースカート。親の時代から受け継がれてきたその制服は、他校と比べるととても時代遅れだったと思う。 それがいきなり、ブルーグレイのジャケットにグリーンのプリーツスカート。よく見ればその深緑に品のいい地模様がうっすら入っていて、タイは憧れのリボンタイ、グリーンとグレイのツートンカラー……に変更になった。今年の新入生から。  オシャレな女子たちは、泣いて悔しがっていた。 「でも男子は、いいわねえ。新しいデザインをイケメンが着ると!」 「でも、かっこいい子しか似合わないって、みんな言ってるから、普通の子は前の学ランの方がいいんじゃない?」 「あらー! じゃうちのお客さんたちはイケメンなのね~。似合ってるもの」 そう言って、ふふふーんとおばあちゃんが、笑った。手元を見ると、いつの間にかサンドイッチのフィリングが完成している。
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