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「パン屋なんてさ。お前じゃなくてもいいだろ?」 きっちり三角に結ばれたおにぎりをかじりながら、島田はそう言った。 海苔でピシッと周囲をまかれて、ど真ん中に梅干がきちっと入った美しいおにぎりだった。 「なんだかんだ言って、お前勉強好きじゃん。それに、両親ともに学問を生業にしてるっていうのに、それってすっげえ裏切りじゃないの?」 「……」 無言で、サンドイッチをかじった。何も答えたくなかったから。 「それなのに、なんでパン屋なんだよ。普通に考えてねぇわ。いつまでも小学生じゃないだろ?」 島田はずっとこれが言いたかったんだな、と思った。この間のクッキング教室のときから。でもあの時は途中でさえぎられたから、わざわざ昼休みにやって来たんだろう。  今日はいつも一緒にご飯を食べている山ちゃんが、委員会の仕事で呼び出されていていないから。今、私一人だから。わざわざ言い聞かせに。 「とにかくどこでもいいから大学受けろよ。そしたら周りも落ち着くだろ。お前なら選び放題なんだから」  どれもこれも、先生たちに言われたなぁ、と思いながら黙々と食べる。  ちなみに母親はもっと辛辣だった。 「パン屋なんかになって、どうするの? 大変なことしかないわよ? 毎日同じ作業の繰り返しで、重労働で、休みがなくて、粉がいつも散らばっていて、そんなに大変なのに、そこまで儲からないし……どうしてそんなものになりたいのか分からない」 よく自分の実家のことをそこまで言えるなあ、と感心するほど辛口のコメント。そして、 「美雨って本当に変な子」 と本気でに首をかしげていた。
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