465人が本棚に入れています
本棚に追加
/218ページ
「う、嘘」
「え?」
蓮くんって呼ぶの、凄く恥ずかしくて。付き合った頃からずっとなかなか呼べなかった。でも、私以外の人はみんな「蓮くん」って呼ぶのだ。友達も、私の両親までもが。私だけがずっと加山君って呼んでいて。
「みんな、蓮くんって呼ぶでしょう?」
「だから、みんなと美雨は違うでしょう?」
さっきの言葉をもう一度繰り返して。
「……美雨」
私の名前をゆっくり呼んだ。
それだけで、ゆっくりと体が、顔が熱くなってくる。
俯いて、顔にかかりかけた髪の毛を、隣を歩きながら加山君がそっと払ってくれる。その時にちょっとだけ頬をかすめた指先にさえドキドキしていて。
みんなと、加山君は違う。
私にとっても。
そのとこを確認させられたような気がして、一人で勝手に恥ずかしくなった。
「……忘れたの? 俺がすっごい頑張って、美雨を彼女にしたこと」
わすれて、ないと思う。
けど、私の限界はもう超えていて。何も言えずに視線をさまよわせる。
「名前、ひとつでも。……ほかの人とは違うから」
俯いて隣を歩くだけで精いっぱいだ。
最初のコメントを投稿しよう!