番外編  こころにふれる

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「う、嘘」 「え?」 蓮くんって呼ぶの、凄く恥ずかしくて。付き合った頃からずっとなかなか呼べなかった。でも、私以外の人はみんな「蓮くん」って呼ぶのだ。友達も、私の両親までもが。私だけがずっと加山君って呼んでいて。 「みんな、蓮くんって呼ぶでしょう?」 「だから、みんなと美雨は違うでしょう?」 さっきの言葉をもう一度繰り返して。 「……美雨」 私の名前をゆっくり呼んだ。 それだけで、ゆっくりと体が、顔が熱くなってくる。 俯いて、顔にかかりかけた髪の毛を、隣を歩きながら加山君がそっと払ってくれる。その時にちょっとだけ頬をかすめた指先にさえドキドキしていて。 みんなと、加山君は違う。 私にとっても。 そのとこを確認させられたような気がして、一人で勝手に恥ずかしくなった。 「……忘れたの? 俺がすっごい頑張って、美雨を彼女にしたこと」 わすれて、ないと思う。 けど、私の限界はもう超えていて。何も言えずに視線をさまよわせる。 「名前、ひとつでも。……ほかの人とは違うから」 俯いて隣を歩くだけで精いっぱいだ。
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