番外編  こころにふれる

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歩き始めた加山君の隣にそっと並ぶ。 「あのね、またお弁当作ってもいい?」 「けど試合はしばらくないよ」 残念そうに言う加山君に、首を振って見せる。 「じゃなくて、学校の時、毎日は無理かもしれないけど」 「うそ」 「あの枕みたいなお弁当箱、詰めてみたい」 「枕って! 前も言ってたけど。ひどい。けど嬉しい! いいの?」 「うん、面白そうだし」 おもしろいのかーと笑う加山君に、あと一つだけ希望を述べる。 「あの、ね。北海道、行きたい。……二人で」 ぎょっとしたようにこちらを向く加山君に、ちょっとひどいな、と思う。結構勇気が必要だったのに。 「……それは、あの。……い、つごろ?」 しどろもどろで帰ってきた答えに、笑ってしまう。 「旅費が、貯まったら?」 そう答えたら、「そっか、旅費か! 俺バイトできないしなー!」と考えこんでいる。 「じゃあ、卒業旅行とか?」 と、提案してみたら、 「えっ、卒業まで?」 って返ってきて笑う。さっきから素直すぎる。 「長い?」 「う……長い、かも。です」 色々もれていた自分に気付いたのか、妙にしょんぼりし始めたので、また笑ってしまう。 「じゃあ、変更! ……私が、加山君の名前、ちゃんと呼べるようになったら?」 「……それこそ、いつだよ」 ってため息をつかれた。 「すぐだもん」 って言ってみたら、ちょっとびっくりした顔をして、 「期待しとく」 って言われた。 残り少ない家までの道をゆっくり歩く。 歩幅を合わせて、同じ気持ちで。離れがたくて、でも甘い。 ずっとそうならいいと思う。 ずっとそうできる自分になりたいと思う。 そう願って、見上げた月はぼんやりと滲んでいた。 (終)
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