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「先輩!」 足音に振り向くと、加山くんが手を振りながら走ってくるところだった。 「ヒナ先輩! 見つけた!」 遠目に見ても、いつもと違ってなんだか焦っているように見えた。それなのにあっという間に私の前にやってきて一つ息をつくと、 「あっ……こんにちは!」 慌てたように挨拶をした。  まるで、しまった挨拶するの忘れるところだったといわんばかりの表情をしている。  彼は最初からこうだ。とても後輩らしい後輩だと思う。 「どうしたの? そんなに急いでるの、珍しい……」 「さっき調理室に行ったら、牧先輩が先輩を探して来いって。急いでって」 「え、わざわざこんなとこまで? なんか用事だった?」 「あの……、今日のフレンチトースト、……味が、してないみたいで」 「……えっ?」 ひどく気まずそうに言った加山君の言葉に、頭の中が一瞬真っ白になる。 「あのー、なんか液体? 作る時点で砂糖入れ忘れたんだと思うんですけど……」 「うそ! だって今日は!!」 「……しかも、今日雨のせいか結構盛況でした、よ?」 頭を抱えたくなる。どうしたらいい。とりあえず部室に向かわないと。そう思って目の前の後輩の顔を見上げる。急に目が合ったからか、びっくりしたように彼の目が丸くなる。 「……加山君?」 「ハイ」 この子の足をこんなふうに使ってはいけないんだけど、本当は。 「お願いを……」 「もちろんです!」 最後までお願いする前にかぶせ気味の肯定が来た。申し訳ないけどありがたい。 「ハムとスライスチーズとクリームチーズ。あと、そうだな……グラニュー糖。至急お願い、してもいいですか……?」 「了解しました!」 ニッと笑って、もうすでに走り出している背中に、「ごめん、陸上部の方は?」と言うと、「休みですよ!雨ですもん。 あり余っておりますので、最速で行けます!」 だいぶ向こうから返ってきた。 「気を付けて!  領収書、もらっといてよ!」 聞こえたかな、と思いつつ私も踵を返した。
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