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慌てて教室に戻り、荷物だけさらうようにして、また走って教室を出た。じっとりした空気と、気温のせいで、さっき冷え切ったはずの体はあっという間に常温を通り越して、汗だくだ。 「遅くなりました!」 そう言いながら、部室のドアを引くと、牧と南が声をそろえたように「ヒナ!!」と叫んだ。二人とも途方に暮れたような顔をしている。その後ろで、二年生の川ちゃんと、吉岡ちゃんがオロオロと視線をさまよわせていた。  ふう、と息を整えて、一番前の作業台に立つ。いつもは先生の場所。黒板には『調理部による一日クッキング体験』と可愛いレタリング文字で書かれ、周りには、デコレーションされた可愛いフレンチトーストの写真やイラストがたくさん貼られている。 「遅れてすみません。三年の雛田です。今日はフレンチトーストでしたね。……なにか問題が?」 そう言いながら教室をざっと目で追う。15人、くらいかな。いつもは5人いたらいい方のこのイベントに3倍もの人が集まるとは、雨の威力はすごい。 「あの……味が」 二人組で参加してくれている、女子が言いにくそうに言葉を濁す。 「ヒナぁ、ごめん。朝から卵液につけておいたんだけど……砂糖入れ忘れてたみたいで。焼くまで気づけなくて」 泣きそうな声でいう牧に、頷いて、参加者の方に向き直るとにっこり笑って見せた。本当は笑顔が得意な方じゃないけれど、どうにも気まずいこの空気をどうにかしなくては。 「せっかく参加してもらったのに、ごめんなさい。……でもよくある失敗ですよね?」 そう言って、首をかしげてみせると、少し空気が和んだような、さらにむっとされたような。 わからないけど、続ける。
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