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そのとき、加山君が音もなくドアを滑り込んできたのを目の端でとらえた。
「はや」
つい、そう言ってしまって慌てて参加者に目をむける。
「えーと……、失敗を逆手にとって、さらに豪華なフレンチトーストにしましょう。簡単なアレンジを紹介します」
そう言って、バットに焼きあがっているフレンチトーストを手に取る。
「まずは、ティラミスアレンジ」
「えー」「ティラミス?」とみんなから声が上がって少しほっとする。
緊張で震えないように、ゆっくりとインスタントコーヒーを手に取り、お湯に溶かしていく。いつもよりだいぶ濃いめだ。あとのティータイムで飲もうと思っていたから、ポットにお湯も沸かしてあって助かる。
「次はチーズクリームを」
加山君がさっと、南にクリームチーズを渡してくれた。
「今回は200グラムくらいでいいかな。少し温めて貰って……」
説明する通りに、参加してくれた子たちが動き始めたことにほっとする。さっきまでの、空気が変わってみんなゆっくりと作業に集中し始めている。南が秤や耐熱容器などを出して補佐してくれている。
「電子レンジで、ちょっとで大丈夫です。人肌くらいで。そこに牛乳と砂糖を加えてクリーム状にしてくださいねー。残りの人はさっき作ったコーヒーシロップがだいぶ冷めてきたので……」
手早く、焼きあがっているフレンチトーストをバットに敷き詰めて、刷毛を取り出す。そのときに一つ味見してみたら、シンプルに卵と牛乳の味がした。まずいというほどではないけど、甘みが全くなかった。人間、予想と違う味がすると、がっかりして、必要以上にまずく感じてしまったりするものだ。
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