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「刷毛でこのシロップを、ぬってください。しみ込んでしっとりするまでおねがいできますか?」
数人が塗ってくれていることを確認して、牧に近寄る。
「あれで全部?……全部焼いちゃったのかな」
こそっとそう聞くと、牧が小さく首を振った。
「数枚分はまだ焼いてないの。あと、みんなで液から作ったバゲットのフレンチトーストのほうはちゃんと砂糖も入っているから大丈夫……ヒナ、ごめんね」
「大丈夫、大丈夫。それより追加の買い物、加山君にお願いしちゃった。あの子の分も試食ある?」
「そうなんだ! もちろん。ロイヤルミルクティもサービスするわ」
「それで、焼けてない方は、ハムとチーズはさんで焼こう。食事アレンジ。あとはバゲットは三分の一くらい、キャラメリゼふうにしようと思う。ハムチーズの方任せていい?」
「オッケ」
牧も手持無沙汰そうな数人に声をかけて、何人かでコンロに向かう。見まわして、作業にあぶれている子がいないかチェックする。何人かに声をかけて、グラニュー糖をパンにつけてもらう作業をお願いして慣れてきたころ合いで、加山君に声をかける。
「ごめんね。ありがと」
申し訳なくて、頭を下げたら加山君の制服の裾が濡れていることに気付いた。
「わっ、濡れちゃってる。制服、新品なのに」
「……ああ、全然。気にしないでください」
なんてことないようににこにこ笑う。
「もうすぐ出来上がると思うから、食べていってね。試食のティータイム。いつもより五分くらいは遅れるけど。あと、レシート!」
「いつもごちそうになってるから、いいですよ」
「ダメ!」
「……ですよね。わかりました」
また、にこにこ。
「でも、さすがですね。先輩。……あっという間に問題解決」
加山君にそう言われて、首を振る。「そんなことないよ」と言うと、加山君は「僕、ティラミスアレンジ、めっちゃ気になります」と笑った。
本当に、さすが、な人は部活のイベントの当日に職員室に呼び出されたりしないんだよ、と思う。言ってもしょうがないから口には出さないけど。呼び出されていること自体が私の甘さなのかもしれない。
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