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第六話 現想
「珍しいね。坂本から誘ってくるなんて。」
「何か、飲みたい気分だったんですよね。」
「へぇー、そうなんだ。」
編集長がにーっと笑って私の顔を覗き込む。
私が編集長を誘う時は大体悩んだりした時だということが分かっているからだと思う。
だからと言って彼女は詮索をしたりしない。
「別にとやかく言うつもりは無いけど、思ってる事はちゃんと言わないと後悔するよー。私と坂本は本当似てるから。」
「私が編集長と?」
「そうそう、仕事にはシビアなのに自分の事は駄目っていうか。特に恋愛面は。」
編集長の言葉にドキッとする。
勘が鋭いところにはいつも冷や冷やさせられる。
慌ててビールを飲み干す。
「飲むねぇ、坂本。よくわかんないけど、とりあえず飲むかー。」
そういうと編集長は自分のグラスを勢いよく飲み干した。
速いペースで飲み続け、気がつけば夜中の12時を回っていた。
甲斐編集長をタクシーに乗せた後、私は歩いて帰る事にした。
電車でも帰れるが、歩けない距離でもないので酔い覚ましに歩くことにした。
風が吹いていて気持ちが良い。
もう春なんだなぁ……。
つい最近まで寒かったのに、最近は本当に過ごしやすい。
私は柄にもなく、少し鼻歌を口ずさみながら白線の上を歩いてみた。
子供の頃にやった、白線しか歩いてはいけないとかいう自分だけのゲームを思い出す。
どこまで行けるかな。
真夜中だし、人気があまりないから人に邪魔される心配もなさそうだ。
ふらつきながらも白線だけを踏んで歩く。
しかし家まであと少しというところで白線は終わってしまった。
あー、残念。
仕方ないと思い、顔を上げるとドンッと何かにぶつかった。
殆ど下を向いて歩いていたので、最初何にぶつかったかわからなかった。
「いったた……。」
そんなに痛くはなかったが酔っ払っていたのでいつもより大袈裟によろけてしまう。
鼻を押さえて下を向くと男物の下駄が見える。
「大丈夫すか?」
上の方から聞き覚えのある声がする。
顔を上げると、今日会ったばかりの藤本さんが立っていた。
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