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第七話 現想―其の二―
酔っ払って気になる人の幻覚を見るなんて私も終わりだなと思う。
ぶつかった反動で左に大きく揺れる。
ヒールがコンクリの溝に入り、つまずいてしまった。
その瞬間、左肩をしっかり押さえられたのを感じた。
「気をつけないと、危ないすよ。」
……あ、夢じゃないんだ。
細腕とは思えないくらい強い力で支えられている事に気付いた。
「わ、すみません。私、ちょっと酔っ払ってて……」
「……見ればわかるす。」
それはそうだ。
こんなふらふらして鼻歌混じりに白線を歩いている大人が酔っ払っていなかったらかなり陽気、というかかなり怪しい。
「……よく、お会いしますよね。」
「そうすですね。奇遇すね。」
「……奇遇すね。」
真似して私も繰り返す。
酔っているから顔が少しぼやけて見える。
だけど、藤本さんが軽く笑っているのはわかる。
「……足、大丈夫すか。」
「……え?」
言われるまで気が付かなかったが、左足のストッキングが電線して膝を少し擦りむいていた。
さっきよろめいた時に左膝が地面についたのを思い出した。
「……あーもう最悪……。」
酔っ払っているところを見られただけでも恥ずかしいのに、その上ストッキングが電線してるなんて、みっともなさすぎる。
なぜか藤本さんの前ではいつも恥ずかしいところばかりを見せてしまう気がする。
「……血が出てるすね。ちょっといいすか。」
そう言うと藤本さんは、私の手をとって歩き出した。
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