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第八話 現想―其の三―
突然の事に頭がまわらない。
酔っていて回らないのかもしれないけど。
彼に引っ張られるままに後ろをついていく。
いつも行くコンビニの角を右に曲がる。
少し歩くとそこには小さな公園があった。
「とりあえず、水で洗いましょう。」
水道の蛇口をひねると、私の左膝の汚れを洗う。
洗い終わると左袖から手ぬぐいを出した。
「これ、使ってください。」
目の前にずいと差し出され、勢いで受け取ってしまう。
「えっでも汚れてしまうので……。」
私は使うのを躊躇っていたが、藤本さんが猫のような大きな目で『使ってくれ』とばかりにじーっと見てくるので使わせてもらうことにした。
公園のベンチに座り、膝を拭く。
傷は大したことは無かったが、手ぬぐいに少し血がついてしまった。
「……すみません、洗って返しますから。」
「いいすよ、そんなの。あ、良かったらこれもどうぞ。」
今度は左袖から絆創膏を出した。
まるで四次元ポケットならぬ四次元の袖といった感じだな、なんて思う。
「……ありがとうございます。」
何だか至れり尽くせりで悪い気持ちになる。
大人になってすり傷を作るなんて。
私のほうが年上なのに、子供になった気分だ。
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