第九話 現想―其の四―

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「……そうすか。じゃあ家まで送ります。夜道に一人で鼻歌まじりで歩いてるのは危ないすから。」 鼻歌歌ってたの、バレてたんだ……恥ずかしすぎる。 なんで私は気になっている人の前で上手く立ち回れないのだろう……。 本当に自分のタイミングの悪さを呪う。 「すみません……。じゃあお言葉に甘えて……すぐそこのマンションですから。」 「コンビニの隣なんすね。」 藤本さんは私の隣より少し前を近すぎず、遠すぎない距離でひょうひょうと歩いていく。 着物から樟脳(しょうのう)とお香のような香りがする。 なんだか懐かしい香りのように感じてとても落ち着く。 そんな事を考えていると彼が立ち止まった。 ぼーっとしていたので、藤本さんの肩にぶつかりそうになる。 「……着いたすね。」 「あ、ありがとうございます。手ぬぐい、返しますから。」 「いいすよ。あげます。」 そう言うと、藤本さんはにこっと笑い、手をひらひらとさせた。 「送っていただいてありがとうございました。」 「どういたしまして。それじゃあー」 「あ、あのっ!」 「はい。」 「えと……私も草士さんって呼んでみても、良いですか……?」 突拍子のない言葉に藤本さんはきょとんとした顔で私を見つめた。 私は一体何を言っているんだ。     
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