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「……そうすか。じゃあ家まで送ります。夜道に一人で鼻歌まじりで歩いてるのは危ないすから。」
鼻歌歌ってたの、バレてたんだ……恥ずかしすぎる。
なんで私は気になっている人の前で上手く立ち回れないのだろう……。
本当に自分のタイミングの悪さを呪う。
「すみません……。じゃあお言葉に甘えて……すぐそこのマンションですから。」
「コンビニの隣なんすね。」
藤本さんは私の隣より少し前を近すぎず、遠すぎない距離でひょうひょうと歩いていく。
着物から樟脳(しょうのう)とお香のような香りがする。
なんだか懐かしい香りのように感じてとても落ち着く。
そんな事を考えていると彼が立ち止まった。
ぼーっとしていたので、藤本さんの肩にぶつかりそうになる。
「……着いたすね。」
「あ、ありがとうございます。手ぬぐい、返しますから。」
「いいすよ。あげます。」
そう言うと、藤本さんはにこっと笑い、手をひらひらとさせた。
「送っていただいてありがとうございました。」
「どういたしまして。それじゃあー」
「あ、あのっ!」
「はい。」
「えと……私も草士さんって呼んでみても、良いですか……?」
突拍子のない言葉に藤本さんはきょとんとした顔で私を見つめた。
私は一体何を言っているんだ。
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