第十話 追想

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明日、藤本書店に行ってみよう。 突然行ったら迷惑だろうか。 でも手ぬぐいを返すだけだし、わざわざお店に電話を入れるのも変だな。 考えすぎは私らしくない。 とりあえず明日は出かけてみよう。 そう決めて早めに寝ることにした。 次の日、起きると10時を少し過ぎていた。 休みの日はどうしても気が緩んで遅い時間に起きてしまう。 お昼までには出ようと思い、軽く化粧をして、シャツとパンツといったシンプルな服を選ぶ。 私はスカートをスーツ以外持っていない。 自分には似合わない気がして、私服は大体パンツスタイルだ。 女っ気がない格好の自分につくづく溜息が出るが、仕方がない。 マンションを出ると、癖でコンビニに目がいく。 そういえば、コンビニの商品とか、草士さん食べた事あるのかな―。 ふとそんな考えがよぎる。 この前のお礼に何か甘いものでも買っていこう。 コンビニのスイーツを買って行ったら案外面白いかもしれないと思い、新商品のプリンを手に取る。 プリンの入ったコンビニ袋とバッグを手に、電車に乗る。 藤本書店の前に着くと、妙に緊張した。 仕事で行った時の方がすんなり入れた気がする。 扉の前で軽く深呼吸をして引き戸を引いた。 チリンとドアベルが鳴る。 中にはお客さんはいないようだ。     
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