第十話 追想

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草士さんの姿も見えない。 「こんにちは。坂本です。草士さんいらっしゃいますか。」 少し声を張ってみる。 店内はしんと静まり返ったままだ。 もしかしたら出かけているのかも。 アポなして来るなんて、やっぱり思い切りすぎたかもしれない。 また出直そうと思い、引き戸に手をかけようとした時、二階からガタガタという音が聞こえた。 「いらっしゃいませー。お待たせしましてすみません。 ってりょーこさんじゃないですか!どうしたんすか。」 草士さんはぺこっと頭を下げながら襖を開けて出てきた。 頭を下げていたので最初、私だという事に気づかなかったらしく、私と気付くと目を見開いてぱちぱちと瞬きをした。 「あ、こんにちは。この前はありがとうございました。これ、やっぱり返そうかと思って……。」 そう言うと私は手ぬぐいを差し出した。 草士さんは目を丸くして手ぬぐいを見つめている。 しばらくすると目を半分くらいまで細めてにっと笑った。 「これはりょーこさんにあげるって言ったじゃないですか。わざわざ届けにきてくれたんすか?」 「はい。何だか素敵な手ぬぐいだし、悪いかなって思って。」     
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