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冷静になってみれば、この男はこの雑誌を見たがっていると考えるのが普通だという結論に至った。
今の私はその男がどうゆう人物なのかという事が気になって読んでいないに等しいから、雑誌を渡そうか迷った。
さっきは読みたがっていた雑誌をとってしまう形になってしまったし、無言で雑誌を棚に返したら失礼になるのではと考え、意を決して話しかけてみる事にした。
「あの、この雑誌、読み終わりましたから。」
すると男は一瞬驚いていたが、軽く頭を下げて猫の様に笑った。
実際、猫が笑った所なんて見た事はないけどきっとこんな感じに、憎らしくも人を惹き付けるような笑い方をするんじゃないかと思う。
雑誌を渡すと、男は熱心に読み始めた。
着物の男性が女性ファッション誌を真剣に読んでいるのはやっぱり不思議で、しばらく観察していたいところだったが、 手持ちぶさたの私がいつまでもその場にいるのはおかしく感じたので、ビールと適当におつまみを買ってそそくさと部屋に戻った。
ビールを飲みながら明け方近くまでテレビを流して見ていたが、ずっとコンビニであったあの青年の顔が頭から離れなかった。
このマンションに越してから2年程経つが、あんな人と会った事は一度もなかった。
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