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 正孝と佳奈美の名前を呼びながら探したけど二人の姿は見えなかった。どこに行ったのか分からない。もしかしたら、俺たちを置いて出ていったのかもしれないと思い始めた頃、エレベーターの扉の前に佳奈美のハイヒールが落ちているのが見えたんだ。  恐る恐る近づいた。靴は間違いなく佳奈美のものだった。エレベーターの扉が開いていた。唯が中を覗きこんで「ひっ」っと悲鳴を上げた。エレベーターの扉から下を覗き込むとさっき下に降りて行ったエレベータの天井の上が見えた。  ぐちゃぐちゃに潰れた正孝だった物と佳奈美だった物がそこにあった。真っ黒な液体が溜まりゆらゆらと揺れていた。正孝の首はねじれて目が飛び出していた。佳奈美の足は変な方向に曲がって非常口マークを逆さまにしたようなポーズになっていた。  俺たちはその場から逃げ出した。もう一秒だってこの病院に居たくなかった。中央階段に向かう途中に長い廊下があるんだ。窓がずっと並んでいて、窓の反対側はずっと壁っていう廊下が。先頭を走っていた俺は急ブレーキをかけて止まった。止まるしかなかった。  だって、廊下の先に薄緑の病棟着を来た髪の長い女が立ち止まっていたんだから。後ろを振り返ると同じような姿をした女がやっぱり立っていて両側から挟まれた形になった。女は最初ゆっくりとこっちに近づいてきているようだった。その動きに合わせて俺たちもゆっくりと後ずさる。  次第に女は歩いている状態から早足になり、駆け足になり、最後には陸上部のスプリンターのように腕を振りながら全力で走ってきた。紙を振り乱しながらだ。ものすごい速さで走っているのに全く足音がしない上に髪の毛の隙間から見えた目は真っ赤に充血していた。  前も後ろも逃げ道がなくて左右を見回した。すぐ横に扉があるのに気が付いてその扉に飛び込んだ。扉の先は何もなくて空中に放り投げられてジタバタ手足を壊れたおもちゃみたいにバタつかせて落ちていったよ。  唯は絶叫してなりふりかまわず走り出して闇の中に消えていった。結局、唯が見つかったのは翌朝だったよ。例の鏡の前で振り乱した髪の毛で呆然と立っていたんだってよ。ずっと笑ってたって。何を話しかけても反応せず、目の焦点も合ってないのにずっと
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