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交錯する運命
1
さんさんと照り付ける、太陽。光の洪水と呼べる、眩しさ。暑いけれども。カラッとした空気。南国特有の植物。甘い香りが漂う。信じられないほどの白い砂浜の先。空を映した、青い海が広がる。
吹く風が、如月悠貴(きさらぎ ゆうき)の頬を優しく撫でる。テレビを通してでも、夢でもない。現実に来ている。実感して、赤い花に負けぬ笑みを浮かべる。
「待ち合わせまで、時間がある。行きたい所に連れて行ってやる。どこに行きたい?」
「海!」
バスの車内。通路側の席に座る父如月光貴(きさらぎ こうき)に聞かれた。窓から外を眺めていた悠貴は視線を外して、即答する。幼いながらも、分かっている。住んでいる村を出るのが難しい、と。来たチャンスは、掴め! 出掛ける前の、今朝も揉めていた。
「君の妻の悠子(ゆうこ)に会う。外出許可は出ているな。……悠貴を連れて行く必要があるのか」
「実母に会わせるのは、父親として当然の……義務です」
「しかし、なあ……。彬(あきら)さんがいない時に……。置いていかねえか。子どもの面倒を見てくれる奴なら、いくらでもいるぞ」
「嫌です。お断りします」
「約束を別の日に変えねえか」
「村が世間の評判が悪いのをご存知ないのですか? 潰したい輩は、ごまんといるのですよ」
「ああ、もういいよ。ちゃんと、悠貴を連れて帰ってこいよ」
村の出入り口。人の出入りをチェックする建物がある。村人は治める人の許可を得なければ。村を出られない仕組みになっている。許可証を見れば、すんなり門を通してくれる。甘くなかった。子どもを連れていくのを、番人が渋る。光貴の粘り勝ちというより。通りたいと望む人たちの不満の声に、番人が負けた。
用事だけ済ませて帰ると、悠貴は思っていた。寄り道できる喜びは、ひとしおだ。
手をつなぐ、光貴を見上げる。頷くのを見て、悠貴は手を離す。父の「転ぶなよ」の声に背を押される。白砂の上を走り出す。波打ち際に辿り着く前に、足が止まった。
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