交錯する運命

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 視界に入るのは、家族連れ。悠貴は異なる性の人を、久し振りに見た。村では、見かけない。近くにいる女が身を包む赤いビキニの下は。ふっくらした胸に、細い腰。ふっくらした、尻。まとめられた黒髪は、長そうだ。高く甘える声。  悠貴の記憶の底でうずく。身震いした。番人が渋った理由を思い出した。脳裏に浮かぶ、母親との生活。別れの日、一緒に暮らしたいとねだり、祖父如月彬(きさらぎ あきら)に殴られた。  悠貴の笑みは陰り、トボトボと父の元に戻る。キュッと、手を握った。良いのか、光貴は聞く。子どもは頷いた。  家族を見て、光貴は納得する。早めに、待ち合わせの所に行こうと決めた。悠貴と手をつないで歩き出した。  地域で有数な市場。一歩、建物に踏み込めば。冷房が効く。快適にショッピングや食事が楽しめるように。並ぶ個人商店の品数は、目移りするほど。店を覗く人の数と行き交う人の数を合わせると、さっきよりも多い。光貴は息子を心配する。  悠貴の気持ちが高ぶる。先程受けたショックが消え去るほどに。はしゃぎ声を上げて、店に駆け寄りたかった。視界に入る物、すべてが珍しい。一つ、一つ、指差して、父に教えてもらいたかった。物の名前と使い方を。好きな物を選んで良いと言われたら……。幸せ過ぎて、天にも昇る気持ちになれる。  現実は……。一歩でも離れようものなら。強く引き戻される。握る手に痛みが走った。悠貴に口をつぐませ、足早にさせた。  まずいなあ。息子の様子に、父親は困る。朝に、儀式に臨む時のような晴れ着を着せたときも。大騒ぎだったが。今は空いた手を口元に当てて、物欲しそうに見ている。手を離したら、一目散に駆けて行ってしまうだろう。  物を買って、とせがまれるだけならいいが。質問攻めにあったら……。息子の知識欲を満たせるほどの答えを自分は持ってないし。時間も足りなくなる。用心して、通路の真ん中を歩いていたが。無駄だった。  初めて来たのだ。記念に、一つ買ってやりたいと光貴は考えている。今は、ダメだ。大事な用がある。悠貴の気を逸らせる、良い方法はないか。
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