交錯する運命

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「男同士で、約束した所に行くんだよな」 「あっ……うん」 「夕食までには、ホテルに戻って来なさいよ」 「はーい!」  突然、父の新城真也(しんじょう まさや)に話を振られた真は焦る。ヤベエ、話を聞いていなかった。かろうじて、この後、どうするのか聞かれたと分かる。あいまいな返事をしたが、母の新城詩音(しんじょう しおん)に叱られなかった。忠告はされたが。  望んだジュースをゆっくり飲む時間は与えられなかった。荷物を箱から取り出し、会計を済ませている間に飲み干す。果物は歩きながら食べた。  市場が豊富な品数を誇る。土産物だけではない。地元の住民が日常に買う生鮮食品も多い。並ぶ店を横目に通り過ぎる。フィットネス・クラブが見えてきた。出入り口から、長身の女が出て来る。黒髪は短く、服の上下が黒。一見だと、男女のどちらともつかない。うつむいて、スマートフォンを操作していた。 「お待たせー!」 「おっそーい!」 「ごめん、ごめん。買い物に気合いが入っていてさ。ボクは、口を挟めなかったんだ」  真也は手を挙げて駆け寄る。スマホをパンツの尻ポケットに入れて、彼女は応じる。  歩幅の分、真は遅れる。荒い呼吸を繰り返しながらも、笑みを浮かべる。彼女、植田花梨(うえだ かりん)が大好きなのだ。言葉も文化も異なる国に単身で来て働く。 「ねえ。いつまで、あのおばちゃんに、愛想よくしゃべりかけてやんなきゃいけないの?」  つい、愚痴ってしまう。真は苛立っていた。花梨が自分を産んだ母親なのに、外では呼べないもどかしさ。一緒に暮らす詩音の小言にもうんざりさせられていた。 「離婚が成立するまで?」 「ごめんな、真。前の奥さんと別れないまま、お前の母ちゃんと付き合ったりして」  花梨は首を傾げる。真也は息子の前で、膝をついて抱きしめた。父にとっても、どうしようもない事なのだと真は理解した。 「しょうがないから許すよ。甘い物を買ってくれたら」 「現金ねぇ」 「じゃあ、店に行こうか」  ため息を一つつき、真は妥協する。好物と引き換えにした。花梨は呆れるが。真也は同意する。
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