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「待って、真クンに弟ができるの」
「えっ? やった!」
「は?」
「アタシが産むんじゃないわよ。……行き場のない友達の子を引き取るの」
「ボクに相談せずにかい」
「……彼女に借りがあるから、断れないのよ。……そろそろ、待ち合わせの時間だわ」
急いで、店に向かおうとする。真也と真を、花梨が止めた。意外な話で。真は手を打って喜び、真也は驚きを隠せない。花梨が一人で決断したことに、責めるまなざしを向ける。彼女が渋っているが。詩音との離婚が成立したら、彼女と結婚する気でいる。息子も望んでいる。
答える花梨の歯切れが悪い。彼女に隠し事がある。真也は勘ぐる。彼女に話す気はないらしく、背を向けて歩き出した。
3
地面に立てられた、大きな傘。強い日差しを遮ってくれる。白砂による照り返しも。影の中、専用の椅子を独占。半ば寝転がり、分厚い本を開く。時々、吹く風が細かな砂を運んで、閉口するが。新田瑠衣(にった るい)にとって、至福の時間だ。
両親にとっては、頭の痛い種ではあった。本を読んでほしい思いはある。今時、珍しい紙の本好きだ。今、居る場所に来たときくらい。体を動かしてほしい思いもある。買ったばかりのビーチ・ボールを父の由衣(ゆい)が膨らませていた。
母の瑠璃(るり)は、意を決する。つかつか歩み寄り、息子の手から本を取り上げる。
「本を読むのは、禁止!」
「えー! 返せよ!!」
抗議する瑠衣の視界に入る。母が立つ、ずっと後ろ。自分と同じ歳くらいの男の子。注意を引かれたのは。奇妙な服だったからだ。どうやって着て、どうやって脱ぐのだろう。興味深かった。
「いっ……」
「角じゃない分、マシと思いなさい」
本で平打ちされる。瑠衣は両手で、頭を押さえた。口の利き方で、母が怒ったのは分かっている。痛みが治まった頃、見やる。男の子はいなかった。思い返せば、子どもは母をじっと見ていた。赤というか、朱色の無地の水着。息子の目から見ても、似合っていないと思う。八つ当たりが嫌なので、言えなかったが。他人に指摘してもらいたかったと気づいた。
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