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自分との位置から予想して。花梨が居たのは……。真也の血の気が引く。真は父の手から離れて、荒く積まれた塊の前に行く。
「母ちゃん! 母ちゃん! どこ? 返事して」
小さな手を伸ばして、石を退かそうとする。幼子の力では無理だ。真の悲痛な叫びに、真也は後悔する。花梨との生活がスムーズにいくように。花梨を母と呼ばせていた。裏目に出た。子どもの心に傷を作ってしまった。
「ううっ……」
真にも、理解できた。どうすることもできないことがある、と。
真也は真の側に行く。膝をつくと、後ろから抱きしめた。壊れたのは、空き店舗だ。近辺もシャッターが下りている。たとえ、ガスが充満していたとしても、火がなければ。爆発しない。人の気配はないが。犯人がいる。
花梨の敵を討つと真也は誓う。真を巻き込めない。実母の詩音に託そうと決めた。
物陰から様子を伺う。白瀬徹(しらせ とおる)は引っ込む。白シャツの上から羽織るグレイの上着の内ポケットからスマートフォンを出す。同色のパンツのポケットに入れると落とす危険がある。連絡を取る。
「ボス! 標的を仕留めました」
徹は報告する。遺体を確認できていないが。ターゲットは爆発の中心にいた。後でもいい。ボスから新しい指示が出る。
「承知しました」
一旦、離れる。徹が判断した理由。これから、人が多く集まる。救助隊や警察だけでなく、野次馬も。素人記者も侮れない。仲間の手をわずらわせたら、後々までうるさく言われる。
チラッと、通路を見やる。大丈夫か? あの子ども。徹は奥に進んだ。
聴覚をやられた。悠貴は床を這う。転がる小石を退かして。かばう父の腕から出る。ちょこんと座った。何かに引かれるように、顔を上げる。漂う白い煙が薄れる。
一人の男がモニュメントの台に、腰を下ろしていた。悠貴の無事な視覚は捕らえる。男が手を叩いているところを。理解する。自分の推理が当たっていた。彼は褒めているのだ。
組んでいた足を男は解く。立ち上がって、近づいてくる。悠貴は警戒する。迷彩柄の上下に、右手には銃。暴力的な臭いがした。
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