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ふと気づくと、加賀美のまわりに真澄らしい影が現れるようになる。
しかも、繰り返し繰り返し、手にしたハサミを突き出すようなしぐさをしている。その動作は撮影されないで終わった出番の、真澄扮する女が恋敵の加賀美扮するヒロインをハサミで刺すというシーンを明らかにつながるものだった。
思い切って加賀美は匡にそのことを相談してみると、匡は「僕もそうだ」と言う。
それでどうするのかというと、完成できなかったこの映画を「完成」したいのだと言い出す。何を言っているのか、と加賀美はいぶしがるが、匡はビデオカメラを持ち出してきて、撮影できなかったシーンを真澄の幽霊(?)と生きている加賀美との共演で撮影したい、と本気で言い出す。
加賀美は、匡の正気を疑った。
匡はあくまで大真面目だ。
このままいくと、と加賀美はぞっとした。
ハサミを持った真澄の亡霊に襲われるかもしれない。
どうやらもともと匡は真澄と関係していて、未完成の映画に執着するのはそのせいもあるらしい。実は加賀美もかつて匡と関係があったので、匡が真澄に執着するのに動揺する。
撮られなかった映画の中の三角関係が、今になって再現されようとしていた。
匡はたった今まで撮影していた映像を加賀美に見せる。と、そこには肉眼では見えなかった真澄の姿が映って、加賀美と「共演」していた。
やがて真澄が「現実」に姿を現し、ハサミを持って襲い掛かってくる。
加賀美は逃げようとするが、扉を開けても外には何もない。
二人の女は匡の向けているカメラのファインダーの中にだけ存在していて、「現実」にその姿は消えている
真澄が迫ってくる。追い詰められた加賀美は、真澄のハサミをつかんで反撃して「本来」の展開とは逆に加賀美が真澄を刺す。
真澄は死んだ…。と思ったら、匡が撮影した映像を再生すると、蘇ってまた加賀美に迫ってくる。
二人の女が、互いに殺し合い、そのたびに匡が神のように蘇らせてまた殺し合わせる…。
だが、そうしている匡自身が、いつのまにか他のことができず、繰り返し再生される映像の中のように同じことを繰り返しているのだった。
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