プロローグ

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デイヴィッドは、オズワルド伯爵邸のすぐ隣に建っている塔の壁面を登っていた。 その目的は、オズワルド伯爵の一番大切なものを盗むことであった。 事の発端は、デイヴィッドの兄弟子にあたるジョンがオズワルド伯爵邸に盗みに入ったことにある。 ジョンがオズワルド伯爵邸にお邪魔した際、返り討ちにあったのだ。 情に厚いデイヴィッドは、今なお闇医者のベッドで眠っている兄弟子の代わりに、オズワルド伯爵に報復することにしたのだ。 オズワルド伯爵の宝物は、本邸の横にある塔の一番上に隠されており、使用人さえ近づけてもらえないその場所に、彼は重たい身体を必死に動かして毎日のように通いつめていた。 それを知ったデイヴィッドは、雲の多い今夜を狙い、盗みを働こうとしている。 デイヴィッドが塔の最上階にある窓辺へと辿りついたその時、偶然にも雲間が途切れ、薄明るい月の光が室内を照らし出した。 そして、目の前に広がる光景を目にした彼は息を呑んだ。 趣味の悪いどぎついピンク色の天蓋付きベッド。 所々、床に落ちている赤黒い染み。 すえたような濃厚な匂い。 この部屋の全てが異常だった。
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