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それから、はたとオズワルド伯爵に関する一つの噂を思い出したのだ。
『オズワルド伯爵には男色の気があり、塔の最上階にはとても美しい少年が幽閉されている』
誰が言ったかも分からない不確かな噂であったため、大して気にも留めていなかったデイヴィッドだが、この状況に全てを理解した。
すると、新たに見えてくるものもある。
少年の首には真っ赤な首輪がつけられていて、その手足にかけられた重たい鎖が天井と彼を繋いでいたのだ。
また、先ほどは少年の存在に圧倒され、気づかなかったが、彼は何一つ服を着ていなかったのである。
その細い身体には、いくつものあざや切り傷があり、見ていて痛々しいほどだった。
デイヴィッドは一つ舌打ちをすると、小さな声でぼやく。
「盗むといったからには、盗むしかねぇ」
デイヴィッドは、少年にかけられていた手錠を外し、震える身体に上着をかけてやった。
それから、一言こう告げた。
「俺と一緒に来るか?」
少年は何も言わなかった。
いつの間にか、涙を流していたのだ。
それから、ぎゅうっと膝を抱えて、大きく一つ首を縦に振った。
少年の返事に、デイヴィッドは口角をくいと上げて、軽々と少年を抱き上げた。
「よし、じゃあしっかり掴まっとけ」
その夜、何かを抱えた怪盗の姿が街の上を駆けていったのだが、それを見た者はほとんどいなかった。
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