プロローグ

3/6
前へ
/163ページ
次へ
2011年夏 月島 葵(つきしま あおい)は、自宅のリビングで、トースターに焼かれた食パンを頬張りながら、眠たそうな二重瞼の目で、テレビの報道番組を視聴していた。 時刻は午前11時……朝食にしては少し遅い。大学が夏休みのせいもあってか、生活が少々不規則になっている。 無造作になっている癖毛を、右手でかきむしりながら、思わず呟いた。 「退屈だ」 夏休みになってから数日が過ぎたが、予定もなく家でただダラけているだけだった。 葵は容姿端麗でスポーツも万能な東鷹大学(とうおうだいがく)の大学生で今年の春に二十歳になった青年だ。 見た目は美男子で、大学内でも有名人だが、友人は少ない。 しかしそれには理由があり、葵は頭が良すぎる。そのため人と話す時に理屈っぽくなることがよくあり、相手が苦手意識をもつ。 「月島 葵は変わり者」といった噂もあるほどの有名人で、それが友人が少ない理由の一つだ。 葵がリビングでくつろいでいると、自宅のインターフォンがリビングに響く。 今自宅には葵しかいない。母は買い物に出かけていて、平日なので父はもちろん仕事で家にいない。ただ父に関しては、曜日に関わらず仕事の都合上ほとんど家にいない。 葵は受話器を取ることもなく、直接玄関に向かった。 受話器を取らなかったのは、数十分前にスマホにメール受信が有り、誰が来るか分かっていたからだ。 葵が玄関のドアを開けると、葵の予想通りの人物がそこにいた。 その人物は葵と同じ位の年齢の女子で、背中まである長くて綺麗な黒い髪が、その綺麗な顔によく似合い、キャミソールと、タイトなジーンズ姿も様になっている。
/163ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加