16人が本棚に入れています
本棚に追加
美夢は葵がつけっぱなしにしている、テレビを見て呟いた。
「明るいニュース……最近ないね」
葵は自分のコーヒーを一口飲み、仕方ないといった表情で、美夢に相槌をうった。
「ああ……」
テレビの報道番組は、世界情勢の特集を専門家を交えて議論している。内容は、内乱や、テロといった所だ。
美夢は葵の表情と、相槌が気に入らなかったのか、葵につっかかった。
「冷めてるのね……遠い国の話だし、実感わかないよね」
葵は表情を変える事なく言った。
「ああ……実感もわかないし、人類の歴史を振り返ってみても、大小問わず争いのない時代はないからね。民族間の思想の違いや……いや、根本的に言えば、人はそれぞれ一人一人、人格が異なるからね。互いの事を100%理解するのは不可能に等しい」
美夢は呆れぎみに言った。
「あっ、そう……まぁ、そう言うと思ったけどね。聞いた私が馬鹿だった」
呆れた美夢を不思議そうに眺めながら、葵は言った。
「何だ?美夢が話を振ってきたのだろう?もういいのか?」
「私……社会問題の話をしに来た訳じゃないし……」
葵は自身の髪を、ぐしゃぐしゃしながら言った。
「そうだったな。僕に渡したい物があるんだったな。何だ?また警部殿から事件の資料でも預かって来たのか?」
警部とは警視庁の警察官で、藤崎 宗吾(ふじさき そうご)。若くして警部になった、いわゆるキャリアで、美夢の実の兄だ。
葵は度々、宗吾からの依頼で警察の捜査に協力している。
宗吾からしてみれば、葵は妹の美夢の幼なじみで、弟みたいな存在だったが、ある事件をきっかけに、葵の頭の良さを、まの当たりにした。
それ以降、葵には度々、難事件の捜査協力を求めて来るようになり、現在の関係に至っている。
葵が大学で有名なもう一つの理由がこれにあたる。
葵は今回も事件の依頼だと思い、不謹慎ながらも少し胸が踊った。これで退屈しのぎになると。
だか、葵の踊る胸を鎮めるように、美夢は嬉しそうに首を横に振った。
「違うよ。楽しいものだよ」
そう言って、美夢は葵に一枚のチケットを手渡した。
葵は受け取ったチケットを、まじまじと観察する。
最初のコメントを投稿しよう!