卒業アルバム

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生まれつき右手だけ短いウサギがいた 小学校の飼育小屋で12匹いるうちの1匹 いつも壁に寄り添って ご飯を争う他のウサギを恐れて 自分からは食べに来られない短いウサギ ウサギは孤独であると死んでしまうと言うけれど 俺にはその短いウサギが孤独に見えた だからなのかもしれないけれど 君はそのウサギに対して人一倍 思い入れを持っていた 小屋の掃除をするときも ご飯をあげるときも 名前を呼ぶのは短いウサギだけ 俺は他の11匹のウサギと共に 君に呼ばれるのを黙って待っていた ある日、短いウサギが右手を震わせていた 君はその震えが収まるまで 名前を呼びながら温めて続けていた 君の小さな手で包まれたウサギの右手 眠りに落ちてしまいそうに瞼が緩む だけど、君がウサギを呼ぶ声は 不安や恐れまじりで 眠ることを拒むように聞こえた 「もう帰らないと・・・」 俺の言葉にようやく君は立ち上がった だけど、君は扉の鍵を閉め 金網に指を微かに触れながら 小屋の周りをグルって回る 回る度に金網に捕らわれていくように見えて 俺は君を引きはがすように 「もう行くよ」 日が暮れ始め 小屋の中は陰に染まる 陽に焼けた小麦色の肌の君 小屋の中の陰に飲み込まれていくようで 短いウサギのように孤独に見えた 翌日、君は学校を休んだ 理由は母親が危篤だという 俺が危篤という言葉を聞いたのも その意味を知ったのもそれが初めてだった 俺は初めてひとりで小屋へ向かった 短いウサギだけがいなかった 先生に尋ねると 死んでしまったという 俺は君が知ったら悲しむだろうと思って 翌日、学校に来た君に 脱走したってウソをついた
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