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突然、腕を強く引っ張られて俺はたたらを踏む。見ればそこにはフレイがいた。
見た事のない顔をしていた。苦しそうで、切なくて、そして怒っている。
「どういうつもりですか、グランさん」
「どうもこうも、寂しそうな隊長を慰めようかと」
戯けた調子のグランを、フレイはきつい目で睨み付けている。敵を見るようだ。
「あの…フレイ?」
掴まれている腕が、少し痛い。
でも、フレイはそんな事を気にできる様子もなく、俺の腕を更に引いて屋上から引っ張っていく。
俺とこいつのコンパスは残念ながら違う。俺は大分早足だ。
「おい、フレイ!」
声をかけてもお構いなし。
そうして連れてこられたのは、執務室だった。
鍵を掛けた執務室の壁際に、俺は何故か追い込まれている。
見上げる瞳にいつもの余裕がない。飢えたような目で見られると、ドキドキが止まらない。
「あの…」
「俺は貴方の事が好きです」
同じ言葉が繰り返された。
俺の胸はまた、甘く痛んだ。
「誰のものでもないと言うなら、我慢出来ます。貴方が本気だと言うなら、貴方を思い諦める事もできます。ですが…」
少し硬い黒髪が、俺の首筋に触れた。
俺はなんとなく、その頭を撫でている。気分は大型犬に懐かれた感じだ。
「俺は、誰のでもないよ」
「グランさん」
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