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突然の告白
「貴方の事が好きです」
それは突然の部下からの…しかも信頼している奴からの告白だった。
受けた俺はキョトンとしている。一瞬、何を言われたのか分からなかった。そして今も飲み込めていない。
「え? なに?」
「貴方の事が好きです、隊長」
…どうやら、聞き間違いじゃなかったようだ。
告白してきた相手、フレイは俺の副長で、一年近くほぼ一緒の生活を送っている。
部屋は隣、執務室は同じ、砦の見回りや、街の見回りも俺の斜め後ろをピッタリとついて回っている。
本当に仕事が出来て、全てにおいてそつなくこなす奴だ。他人に対しては柔和な笑みを浮かべ、対応も柔らかく丁寧。かといって硬いかと言われればそうではない。冗談を言ったり、部下の鍛錬に嫌な顔一つせず付き合ったりしている。
俺はそんなフレイが、少し羨ましかった。俺にはない柔らかさを持っているように思ったのだ。
「すみません、魔物討伐後でお疲れですよね」
困ったような笑みを浮かべたフレイは、なかった事にするのか背を向けた。
そう、今は街の外に出たモンスターを討伐し、その事後処理をしている最中だ。
とはいえ、もうほぼ終わったようなものだ。無事に討伐され、めぼしいアイテムは剥ぎ取って残りは魔法で燃やした。怪我の有無も確認して、後は撤収するばかりだ。
心臓が、僅かに音を立てた。去って行く背中、その距離を詰めたいと思ってしまう。
べつにフレイを拒んだわけじゃない。こんなに側にいる奴の事を、知らないわけじゃない。
笑うと、雰囲気がとても柔らかくなる。
仕事の時はキリリと締まった、凜々しい男の顔をする。
部下といる時は砕けた感じで、馬鹿や冗談を言って笑っている。
…時々、ドキリとするような色っぽい顔をして見られる事があった。
「え? なんで俺…なに?」
心臓がドキドキと鳴って、少しだけ息苦しくも感じて思わず胸元の服を握った。顔が熱い。
負傷した部下に声をかけているフレイの姿を遠くに見ながら、その距離感に寂しいとさえ思ってしまう。側にいないことがいっそ、不満にも思えてしまう。
麗らかな午後、森の中。
それは初めて誰かの心を知った俺の動揺と独占欲。
そして、初めて自分の心を知った、そんな動揺と波瀾の幕開けだった。
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