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明は先ほどまで泣きそうだったことをごまかすように笑顔を作った。その姿を見た母は「そう」と言って、悲しげな顔をした。明が無理をしていることに気づいているのかもしれない。
「お粥くらいなら食べられそう?」
「うーん、ちょっと食欲ないや」
母は再び「そう」とつぶやいて視線をさまよわせる。母の様子がおかしいことに明が首を傾げていると、母は迷うように目を閉じた後、一通の便せんを明に差し出した。
「……これ、今朝届いたの」
明は便せんを受け取ると、ハッと息を飲む。見覚えのある空色の便せんには「明君へ」と書かれており、差出人は優雨だった。
じっと便せんを見つめる明に、
「東雲さん、この日に手紙が届くように用意してくれていたみたいね」
母は涙ぐむ顔を明から隠すと、「ゆっくり休んでね」と言ってドアを閉めた。
「……優雨さん」
明はぎゅっと唇を噛むと、便せんの封を開ける――さすがにハートのシールまでは貼られていなかった。
『明君へ
まずは誕生日おめでとう。ちゃんと届いていれば、もう十八歳になってるころだよね。十八歳になった明君が笑顔で過ごせてたら、俺は嬉しいなって思います。』
「笑顔になんてなれないよ……」
明の頬を垂れた滴が、手紙を濡らす。
『それと、できもしない約束をしてしまってごめんなさい。この手紙を書いている今も、自分がそう長くはないということを感じています。
明君が俺のことを好きだって言ってくれたとき、本当はすごく嬉しかった。でも、病気のことがあったから素直に喜べなかった。ずっと明君のそばにいられる自信がなかったんだ。別れがあることを意識してしまうと、明君の気持ちをどうしても受け止められなかった。』
最後に散歩をした夜も、明が最後にアパートに行った日も、優雨は自分の死を意識していたのだろう。それなのに、明の前では無理をして笑っていたのだ。
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