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煙管を咥えて通りを眺める。
「ねえ、あれはなんだい?」
年頃になり私はこの大楼の花魁になった。
最年少での大出世、前世は小野小町か卑弥呼かと歌われ、連日私を一目見たいという男達が見世の前を囲った。
「ほんとうに疎いのね。あの男たちはあんたに恋してるのよ」
部屋の千本格子からチラリと顔を覗かせるだけで男たちは私に恋をした。
無論、私を買う事は普通の男じゃできないのだ。
団子が1串で4文。甘酒が1杯8文。
夜鷹の女が蕎麦と同じ値段で抱けるらしく、小さな見世の女郎だと数百文で遊べる中で私は一晩で何十両も金を積まなくては会うことすら出来ない女だったのだ。
「恋ねぇ……わっちの何を知って恋してるのかねえ」
私が煙をくゆらせて笑うと禿も笑った。
「恋なんて幻想だって、里の婆様が言ってたよ」
「そうかい、それはいいね。じゃあ、あの殿方たちはわっちの幻想に恋をしてるんだねぇ」
祖父ほども年の離れた男に抱かれ。
父ほどの男の肌に触れて、朝と晩を繰り返す。
私に何の価値があるのかと、ただ吸い込む煙のように何もないものを感じていたのだ。
※一文は現代の通貨で約20円
夜鷹とは、店を持たず路地などで客をつかまえて1畳ほどのスペースで身売りをする女
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