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千本格子から差し込む夕焼けはいつもよりも赤かった。
「なんだか、面白い事がありそうなお天道様でありんすねぇ」
私がそういいながら禿に干菓子を渡してお茶を持ってこさせると、ねえさんは足を崩して言った。
「鈴蘭はいいねぇ」
「なんだい急に」
「アンタは、身請け金も何もないだろう。自由になりたきゃ飛べる鳥なんじゃないかい?」
「ねえさんはおかしなことをいうねぇ、わっちの羽なんざ、生まれた瞬間に折られてしまってるよ」
金魚売りから買った金魚が2匹、西洋の器の中で寄り添うように泳いでいる。
水が揺れて畳の上に虹を作るのを爪先でなぞった。
「ねえさん? ねえさんは恋をしたことある?」
ねえさんは驚いた顔をして私を見たあとフッと笑った。
「そんなこともあったねぇ……でも恋なんて身売りの女がしたっていいことなんかないよ」
「知ってる……それも生まれたときから言われてきた……呪文みたいにねぇ」
「普通の女なら、恋すりゃ天に昇ったみたいに幸せだろうさ……でもこの廓の中じゃ」
ねえさんはそこまで言って金魚を見ると目を細めた。
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