ゆびきりげんまん

8/12
前へ
/12ページ
次へ
「わっちのことは、すず、と呼んでおくんなし」 私がそう言うと、男は御膳の上から小鉢を取って豆腐を口に運んだ。 「お前に似合う美しい名だ」 「主様は何とお呼びすれば?」 「……清光、そういう名だ」 男……清光様は静かに御膳を楽しんだ。私がポツポツと話す言葉を楽しまれるように頷き微笑んだ。 決して他の殿方のように自慢話や武勇伝を語らなかった。 床に行っても他の殿方とは違った。 無理に私を脱がすでもなく、せかすでもなく静かに布団の上に座っていた。 「すず」 襦袢になった私に声をかけた。 「俺の体は醜い、この顔の傷よりもな……それでも、すずは添うて寝てくれるのか」 「当然でありんす……清光様は面白い事を」 「面白い?」 「ええ。ここをどこだと思っておられるのか……大奥ではありんせん……わっちも、この屋根、いいえ大門の中にいる人間皆、同じでありんす」 「……」 「裸になれば、皆同じでありんす。形の差こそ多少あれ偉いもなにもござりんせん。それにわっちは、清光様をもっと近くで見とうござりんす」 「お前は……美しいな」 「あはは、わっちが? それはありがとうござりんした」 「本当だ」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加