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「わっちのことは、すず、と呼んでおくんなし」
私がそう言うと、男は御膳の上から小鉢を取って豆腐を口に運んだ。
「お前に似合う美しい名だ」
「主様は何とお呼びすれば?」
「……清光、そういう名だ」
男……清光様は静かに御膳を楽しんだ。私がポツポツと話す言葉を楽しまれるように頷き微笑んだ。
決して他の殿方のように自慢話や武勇伝を語らなかった。
床に行っても他の殿方とは違った。
無理に私を脱がすでもなく、せかすでもなく静かに布団の上に座っていた。
「すず」
襦袢になった私に声をかけた。
「俺の体は醜い、この顔の傷よりもな……それでも、すずは添うて寝てくれるのか」
「当然でありんす……清光様は面白い事を」
「面白い?」
「ええ。ここをどこだと思っておられるのか……大奥ではありんせん……わっちも、この屋根、いいえ大門の中にいる人間皆、同じでありんす」
「……」
「裸になれば、皆同じでありんす。形の差こそ多少あれ偉いもなにもござりんせん。それにわっちは、清光様をもっと近くで見とうござりんす」
「お前は……美しいな」
「あはは、わっちが? それはありがとうござりんした」
「本当だ」
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