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清光は私を抱かずに眠った。
幼い子供の様に、ただ眠った。
行燈の明かりが消えて、いつの間にか朝日が部屋に差し込んで、夜に映えた朱色の掛布団がスススっと小さな音を立て急に温もりが離れた。
「……清光様」
「! すまぬ、起こしてしまったか」
私は起き上がって着物を直そうとしていた清光の襟を引き下げるとたくましく大きな背中に抱き着いた。
「どうした」
「どうもありんせん……主様をもう少しこうして感じていたいだけでありんす」
清光は振り返ると幾重にも重なった刀傷の胸で私を抱きしめた。
「ある時……仕事の前にお前を見た」
「……わっちを?」
「ああ、俺の主人とこの楼に来た時だ。主人は違う女を贔屓にしておる……俺はその仕事が終わった時、褒美にお前に会いたいと頼んだ」
私は驚いて顔をあげた。
「女を見て、美しいと思って、話をしたいとか……ただ傍で眠りたいと思ったのは初めてだった……よい土産が出来た」
「主様? 土産とは……お里にでも帰られるんでありんすか」
「俺の体を見てわからぬか? もう、仕事は出来ぬ。その代わりに一生遊んで暮らせるほどの金と土地は貰ったからな……寺子屋の子供たちに読み書きと剣術でも教えながら食うていく」
私の心臓は今までにないぐらい早く脈を打った。
「……もう、会えないとおっしゃるんでありんすの?」
「ああ……そう……だな」
ハラハラと涙があふれるのを止めることができなかった。
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