淡い魔法

2/4
前へ
/4ページ
次へ
「いやあ、参ったよ。なかなかうまくいかないねえ。」  ベテラン中のベテランがなにを言ってるのだろうかと男は無表情の仮面の奥でクエスチョンマークを浮かべた。その見えない表情の奥を汲み取ったのか、冴木が手渡されたタオルを受け取りながら続けて口をひらく。 「僕なんかまだまだだよ。一生勉強さ。」  若手には負けてられないからね、と笑う彼の考えることはいつも自分の大分先だと男は感じた。  賀井真成(かい まさなり)は、この名俳優、冴木貴昭のマネージャーである。黒髪短髪で高身長、無表情、鉄仮面。ここまでくると誰しもが思うだろう。人付き合いがあまり良くないのではないかと。そう。あまり表情が崩れない彼は当たり障りなくこの業界で仕事をしている。表情が崩れない様にしているのではなく、表情を崩すことができないのである。生まれつき、というのか、癖とでもいうのか、彼にも不明である。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加