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高校生の頃、祖父の遺品を譲り受けた。
祖父には蒐集癖があり、離れに自分の蔵をもち各地から蒐集した物をそこにまとめて置いていた。そのため、祖父の初七日をこえ、四十九日をあけると、少ない親族で蔵を開けて価値のありそうなものを分けたり売ったりで、中々に忙しかった。初七日まででなくその後が忙しいのはどの家庭でもそうであろうが、我が家の忙しさといったら尋常とはまったくちがっていた。祖父のように蒐集癖をもつ人の親族は昔からこうなのであろうか。とにかく量が多すぎるのである。
その中で、私たち兄弟にあてられた品は、ある程度のものを売り払ったのちに残った本・食器・衣類であった。
食器は上の兄へ渡った。上の兄はちょうど結婚して県外へ住まいを持ったばかりで、食器を増やしたいと思っていたのだという。
衣類もまた兄たちに渡った。
私は親族の中でも特に小柄で、大柄な祖父の着ていた服は大きさが合わなかった。よって衣類は、上の兄と下の兄で選別していった。あまりに古すぎるものは、処分された。
そうして最後に残ったのが十冊の本であった。
著者はばらばらだが、装丁が統一されていて、なにかの全集か叢書のようでもあった。第十巻目の著者は、なんと祖父だった。祖父が文筆家だったとはだれも知らなかったので、これには親族全員が驚いた。しかし、書名で検索しても、近隣の図書館に尋ねても、同じ本は見つからなかったので、おそらくは仲間内でつくった同人誌の類ではないかという話になった。
上の兄は大量の食器をもらっていったので、これらの本は、下の兄か、私のどちらかが譲り受ける流れになったが、下の兄はぱらぱらと頁をめくると「つまらん」と言い捨てて私へ寄越した。そして読書好きな私は別段異論のないまま本を受け取った。
こうして形見分けを終えた翌月、下の兄が死んだ。
バイクを運転中の事故だった。夜道の急カーブで、対向車に激突したという。よほどスピードを出していたらしく、対向車の大型トラックも運転手がひどい怪我をした。地方欄に兄の名前が載り、私の学校ではちょっとした騒ぎにもなった。そのせいで、――まったくひどい話だが――当時の記憶といえば兄の死を悲しんだことよりも知らない人からの好奇の目が不愉快だったことばかりだ。
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