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コーベリアの沖合にあるナルトロン海域は、突如大時化が発生する危険な海域だ。その規模はナルトロン海域に接岸する島々に渡り、日によっては高潮が起きて、沿岸を襲う事がよくあるらしい。
この大時化が起こる前兆は未だ解っておらず、漁師や貿易船の船員さえ、いつ発生するか解らなかった。
しかしベル・シャロンは魔力に目覚めて以来、潮風を浴びる事で近海の気象を把握出来るようになり、その性質を利用して、大時化が発生する日は漁に出た漁師たちを呼び戻すようになった。
アリサ曰く、ナルトロン海域に流れている魔力を、潮風に乗って感じ取ったものと推測している。
「よし、海が荒れる前に灯台の火をつけなきゃな。ベル、手伝ってくれ」
「うん!」
今夜大時化が起きる、という二人の話しを聞いた漁港の住民は、皆大急ぎで準備に取り掛かった。
この時はまだ、海や空に何かしらの変化は見られなかったが、それでも準備に取り掛かるのは、ベルの体質に対する信用の高さがあってのことだ。カイトだと半信半疑だろう。
こうしてカイトとベルの尽力により、大時化の備えはほぼ終わった。そのタイミングと同じくして、海の方からわずかにどんよりした雲が立ち込み、波も少しずつ荒れてくる。
「ふーっ、お疲れさま」
カイトは背伸びしながら、大きく息を吐く。傍らには海をしずかに見つめるベルが居る。
「もうすぐ荒れてくるよ。港付近は近づかない方がいいね」
「どうにか間に合ったって感じだな。とりあえず高潮を防ぐ防波堤は設置したし、灯台の火も付けた事だしな」
漁港の端にある灯台からは、海原に向けて一筋の青い光がくっきりと照らされていた。
コーベリアには貿易船や定期船が停泊する港の灯台とは別に、漁港にも大時化を報せる為の灯台が設置されており、大時化が起きる日以外は使われない。
ちなみに漁港の灯台に使われているレンズは、普通の灯台と識別できるよう、青色のレンズを使用している。普通の灯台と混同しない為だ。
「ほれ、俺たちも危ないから、早く家に帰ろうか」
「そうだね」
漁港からベルの家まではそう遠くはなかったものの、カイトはベルに付き添って家まで送り届けた。
昼間に捕らた男たちの他に、まだこの街に裏ギルドの構成員が居る可能性があったからだ。
いつ奴らが出てくるかわからない以上、ここでベルを一人にさせる訳にはいかないだろう。
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