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家に着くまでの間、カイトとベルは今回行った訓練の話をした。風の形状維持に加えて、その性質を利用した戦い方、はたまた風を使った浮遊テクニック等々、
そう話し込んでいる間に、彼女の家にたどり着いた。既に西の空に浮かんでいた雲は、沈みかけていた太陽を覆い隠しており、街は薄暗くなっていた。
「今日教わった事は、ちゃんと予習しておけよ」
「分かった。じゃあねカイトお兄ちゃん」
カイトに右手をせわしなく振ってから、ベルは家に入っていった。その姿は本当に犬に見えてしまう。
その姿を見送ったカイトは、踵を返してギルドハウスへと足を運んだ。昼頃に捕まえた裏ギルド構成員の尋問が気になっていたからである。
『海人の狩人』はコーベリア近辺で盗賊まがいの犯罪行為に及んでいるが、コーベリアまで現れるのは過去にそう多くはない。単純に獲物を探す為に来たのかもしれないが、コーベリアは
『黄色の黄昏』が目を光らせている。そんな事をすれば捕まる危険性が高まるのだ。
コーベリアに来てまで、何かを成そうとしている。それは一体何か。
「(……襲撃、占拠、確保)」
襲撃、それなりに戦力を備えれば可能だろうが、しかし『黄色の黄昏』の面々は決して弱くない。むしろこのランパルド王国に貢献するほどの魔導士ギルドだ。並の裏ギルドでは歯が立たず、呆気なく壊滅されるだろう。
占拠、アレが下見ならば恐らくありえる。コーベリアは都市であるが王都ほど広くはない。占拠する場所によれば手中に落ちるのも容易い、とすると『黄色の黄昏』と真正面から激突する事になる。
確保。
「(……確保?)」
一体誰を?コーベリアの市長か?はたまたギルドマスターか?
だとするなら、その目的は何だ?
こちらの戦力を削ぐためか?人質を取って無力化させる為か?
可能性としてはゼロではない、いずれも、コーベリア制圧には十分成しえる事だ。しかし人質の確保とするなら、それは一体誰になる?
人質を確保して、何をするつもりなのか。それでギルドを無力化させるのか、それだけなら何故、今までコーベリアに出没して来なかったのか。可能性として色々なものが頭に浮かんでくる。
どれも確証はない、カイトの思い過ごしか、考え過ぎな事ばかりだ。しかしどれも捨てがたい。
考え事をしている間に、カイトはギルドハウスに辿り着いた。中ではギルドメンバー数名が夕食を取っており、奥のカウンターではエプロン姿のふくよかな体型をした女性が料理を作っていた。
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