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「『黄色の黄昏』所属、『カイト・マーシー』、海の地平線に沈む日を背に、制裁を執行する」
「イエロー、トワイライト……?」
青年・カイトが名乗り上げた際に口にした言葉、『黄色の黄昏』。
この街をたむろしている男たちでも、その言葉が何なのかは理解していた。
しかしそれは、畏怖する意味ではなく、嘲りという形で。
「……はっ、あの女だけのギルドの一員か。男も居るんだな」
女に組み付いている男は、カイトの素性を聞いて、舐め切ったように言い放つ。
いくら男尊女卑の空気を取り払ってはいても、その名残は未だ根付いている。その上
『黄色の黄昏』は、女性の魔導士進出アピールも兼ねていた為に、かつてのコーベリアの考えを持つ者からは、やはりどこか軽んじている事が少なくなかった。
「そんな奴、俺の雷で十分だ!『放電』!」
勝機を確信して、痩身の男が拳に雷を集中させて、カイト目掛けて投げつけた。雷は一筋の光を帯びながらカイトに向けて飛ぶ。
この場合回避するのが無難だが、カイトはそうしなかった。その代わり、手にしていた鉄の棒をバッティングフォームに構えてから振るって、飛んで来た雷を蹴散らしたのだ。
「……あ?」
雷を放った痩身の男は、そんな呆けたような声が上がる。
「これぐらいで俺を倒せるってか?抜かせ、セラスの雷がよっぽど痛いぞ」
この間にも、カイトの右腕には雷がほとばしるが、全く気にも留めず、毅然とした態度で言い放った。
普通であれば、握っていた鉄の棒を反射的に離してしまうほどだが、カイトの場合は、けいれんを起こした様子もなかった。
「な、何言ってんだ!普通なら気絶するほどの奴だぞ!何で立っていられる!?」
男が狼狽えている間、カイトはおもむろにその場で深く息を吸い込み、空気を十分に口の中で溜め込むと、
「っ!」
口をすぼめて、中の空気を小さく吹き出した。しかし吹き出した空気は、ただの吐息としてではなく、質量を持ち合わせた空気の塊として、目にも止まらぬスピードで、男の肩に直撃した。
「がっ!?」
その威力は肩を貫くほどではないにしろ、痩身の男を後方に弾き飛ばすくらいの衝撃はあり、男はそのまま地面に倒れる。
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