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カイトは今まで、何等かの形でメンバーに迷惑をかけている事がたびたびあった。
いずれも、カイトによってセクハラを受けた事による報復らしいが、本人は至って悪気はない。どころか悪意も故意もない。完全なる不可抗力だ。
その中でも、エレンだけは一線を画すように違った。どんなにカイトから胸を触られたり(ほとんど頭から突っ込む)、着替えてる所を目撃されたり(部屋を間違える)しても、エレンはのほほんとした対応で流していた。
故に、エレンの寛容な態度に、カイトも恐怖を覚え始めている。もしかしたらいつの日にか、肉も骨も灰にされるのではないか、と。
「別に平気よ~。だってカイトくんだし、まさかそれに託けてセクハラしてる、って事は無いんでしょ~?」
「当たり前だ」
「だったら、別に構わないわよ~。何だったら、ちゃんと言ってくれたら触らせてあげても良いんだから~」
「……エレンよ、あたしでも引くぜその姿勢」
寛容どころではない。最早痴女の雰囲気がある。女性であるアンジェラも流石に距離を置きたい心情だった。
「ところで……セラスちゃんはどこかしら~?」
エレンは穏やかな笑みを浮かべながら、セラスの所在を尋ねた。彼女とは仕事上のパートナーで、プライベートでもそれなりに交流を持っている。
さっきまで単独任務だった為か、セラスを人恋しく思っていたようだ。
「セラスなら、あたしとカイトが捕まえた奴を尋問してるとこだぜ。多分地下室に居るはずだけど」
「あらあら……」
しかしそれ以上聞こうとせず、何か含みのあるような言葉を呟いた。何考えているのかわからないが、しかしその柔和な笑みが、悪い事でも考えているように見える。
その真意が解る前に、エレンが思い出したように口を開いた。
「そうそう、忘れてたけどカイトくん、あなたにお客様よ~」
「客?」
カイトが疑問を抱くような声を上げていると、大柄なエレンの身体の影から、小柄な少女が現れる。ブラウンカラーのショートカットに、水夫のようなセーラー服と半ズボンという格好をしている。
「カイトお兄ちゃんっ」
少女、『ベル・シャロン』は甘えるように発した鈴のような声で、カイトの名前を呼んだ。
彼女はコーベリアで暮らす漁師の一人娘で、『黄色の黄昏』に入る為に、魔導士を目指していた。カイトはそのベルに魔法を教えている先生である。
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