海に沈む夕日

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「おっ、ベルか。迎えに来てくれたのか?」 「うん、ここに来る途中で、丁度エレンお姉ちゃんに会ったんだよ」 まるで楽しげに、カイトと会話を交わし始めたベル。もし犬の尻尾が生えていたら、せわしなく動いていたに違いない。 「もう仕事終わったんだよね?早く魔法教えて!」 「わかったわかった……っと、アンジェラ、エレン、俺先に上がるから。お疲れ」 急かすベルに手を引かれて、カイトはそのまま行ってしまった。 「……随分とぞっこんだな」 「微笑ましいわぁ~」 ギルドハウスから出ていくカイトとベルの後ろ姿は、さながら仲睦まじい兄妹のように映っていた。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ カイト・マーシーは無変体質である。 本来魔力というのは、ある程度のプロセスを踏んだ上で魔法に変換して放出するのが普通だが、カイトの魔力は、魔法に至るまでのプロセスが踏めないという失陥を抱えていた。 しかし、これは単なる親の遺伝によるものではない。ごく稀な隔世的遺伝でこの体質となって生まれてくる、誰しも場合によってはあり得る体質だ。 とはいえ、プロセスが踏めないからと言って、魔法が全く使えないわけではない。 属性魔法の場合、自身の使う属性と同じ自然物と、自身の魔力を混ぜる事で、初めて属性魔法が使えるのである。 カイトの場合、風の属性魔法を使う為、吐息であればすぐに魔法を使う事が出来るのだ。 その手間を補う為、カイトは日ごろから肺活量を鍛えており、潜水は15分も余裕で行ける程になっていた。 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆ カイトとベルは、『コーベリア』の漁港の隅に居た。 ここは貿易船が停泊する港から少し離れた場所にあり、地元の漁師が所有する漁船が停泊している。加えてカイトとベルが、訓練として使っている場所でもあった。 漁港は貿易港と比べて人気が少ない為、魔法の訓練には丁度良かった。 「……えいっ!」 ベルは手のひらに魔法で作り上げた風の塊を、海面に向けて投げつける。しかし塊は海面に到達する前に、ろうそくの火のように儚く消えてしまった。 「あっ……また失敗だ……」 「まだまだだな。とはいえ風を集中、維持するのは難しくて当然だ」 カイトは自身の手のひらに吐息を吹きかけると、吐息は球体状の形になった。 「まずは充分形状に慣らした上で、形を崩さないように投げるんだ。あまり激しく投げると形が崩れやすい」
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