第1章

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トイレで用を済ませた大吾は、コーヒーを片手に思い耽った。 憧れの対象だった雪を、いつからこんな邪な目で見るようになってしまったんだろうか、と。 初めて彼女が出来たと嬉しそうに報告してきたとき? ホラー映画を見た後、二人でシーツの中で怖がっていたとき? 砂場に造った山のトンネルの中で、ひっそりと手を繋いだとき? もう随分と長い間、報われない気持ちを抱えて生きてきた。 優しい雪は、笑って一人になった大吾を受け入れてくれたけれど。 「このままで良いわけがねぇ」 こんな邪な感情を抱いたまま、雪と過ごすなんて。 ふとした瞬間、押し倒しそうになってしまうなんて。 そんな気持ちを知られたくない。 これ以上、自分を抑えられる自信のない大吾は、この日バイト先を探し始めた。
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