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俺は笑ってしまった。優姫の子供っぽさは少し羨ましい。確かに、これまで生きるのに必死で暇だとかそんなふうに考えたことはなかったな。よし、ここはひとつからかってやろう。
「なぁ、優姫!お前、一人で行っちゃうとか言っておきながら、ほんとは俺たちがついて来てくれるって確信してるんだろ?」
優姫は振り返ると、俺に向かって舌を出す。おっ。かわいいやつめ。・・・いやいや。
「そんなことないよ!ほんとに一人で行くもん!」
「まぁ、どっちでもいいけどな!」
俺はわざと一呼吸おく。こう言うのはしっかりタメてから言った方がいいだろ。
「そっちは元来た道だぞ!」
優姫の動きがピタッと止まる。俺はニヤつく顔が抑えられず変な顔をしてしまっているだろう。優姫は下を向いたままどすどすと足を鳴らして戻ってくる。顔が真っ赤だ。優姫は俺たちの前を通るときに捨て台詞のように吐き捨てた。
「行くよ!」
「はいはい、行こうか」
「ふふふ、そうしましょうか」
俺と涼香は笑いながら自分たちのリュックを背負って立ち上がった。
まったく。優姫はすごいな。こんな時でも変わらず明るいんだから。それにしても、この森は不思議な森だ。何しろ、足元に草が生えてない。いや、こう言う森もあるのかもしれないが、俺の知っている森はもっと、足元に草がたくさん生えていて、そこにいくつかの獣道があるってイメージだったのだが。魔法で作られた森、ということだろうか。
「仁くーん。そんなにキョロキョロしてると転ぶよー?」
「おいおい、優姫じゃあるまいし」
「なによう!心配してるのに!」
「ほら、足元注意」
「えっ!?」
優姫は慌てて足元を確認するが、もちろん何もない。むしろ、確認したことで優姫は足をもつらせて転びそうになっている。
「うわあっ!」
「あはは!」
俺は優姫に追い立てられ、捕まると思い切り締め上げられた。そして、もう二度と優姫のことをいじらないことを約束させられた。ふふん。この約束には時間指定が無いじゃないか。五分後、覚えておけよ。
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